炬燵に穴のこして海を見にゆけり
大石雄鬼
友達とわいわい騒いでいたところ、誰かが「海でも見に行こうよ」と言い、みんな「いいね」と言って炬燵を飛び出し、海へ出て行ったという場面を想像しました。「炬燵の穴」はそんな楽しいひとときが残した跡であり、みんなが出て行ったあとの淋しさをも象徴しているように感じます。「見にゆけり」という措辞がそう感じさせるのでしょう。家に残った者の視点として捉えるとなおさらです。
我が家では、マンションのどの部屋にも「床暖房」があるため、「炬燵」を使うことはありません。しかし、「炬燵」には「炬燵」のよさがあったなあと思います。家族団欒には持って来いでした。特に年末年始は蜜柑を食べながら、テレビを観たり、トランプで遊んだりしました。トランプでは、家族四人で「ナポレオン」*という遊びをよくやりました。父の仕切りがとても楽しく(後述 *「ナポレオン」参照)、いつも盛り上がりました。「炬燵」での大切な思い出の一つが「ナポレオン」遊びでした。
作者は、大石雄鬼さん、句集『だぶだぶの服』(2012年刊)所収の句。家族の団欒でなくとも友達とわいわいがやがやできるのも炬燵のよさですね。 (2026.01.18 【21】)
*「ナポレオン」(トランプ遊び)
この遊びは、絵札と1と10が点の入るカードで、1が一番強く、13,12,11,10の順番になります。それ以外のカードは点にはなりません。最初の人がハートを出せば、ハートがあれば必ずハートを出さないといけません。ハートの12を出して勝てるかと思いきや、最後の人がエースを出すとエースを出した人が12とエースの2点を獲得します。また、スペードのエースはいつでも出せて、どのカードにも勝てる最強のカードです。だから「オールマイティ」と呼びます。
ナポレオンになるには、自ら立候補しなくてはなりません。持ち札にエースや絵札が多いと勝てる確率が高いので、立候補しやすいです。ナポレオンになった人は、「副官」を指名し、味方にします。たとえば、「クローバーのエースを持っている人を副官に指名します」というように。「副官」に選ばれた人は黙っています。だから、「副官」以外の人は、誰がナポレオンの味方で誰が敵かわかりません。
こうして、ナポレオン軍と対抗軍に分かれて得点を競い合います。立候補のときにナポレオンは「15点」とか「12点」というように20点のうち何点取るかを宣言します。宣言した得点以上獲得するとナポレオン軍の勝利、獲得できないと敗北となります。ナポレオン軍の得点は、「副官」と合わせて勝ち取った合計点です。
父は自分が「副官」でないのに、炬燵の中でナポレオンの脚に触れて、「おれが副官だよ」と嘘の合図を出したり、「副官」なのにプレー中、わざとナポレオンに協力しないようなカードの出し方をして我々を欺きました。こっちは子どもですのでいつも騙されます。父のそんな悪戯がとても楽しく、冬になると「ナポレオンをやって」といつもねだりました。今ではとても懐かしい炬燵の思い出です。