ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

この一句

冬空へ出てはつきりと蚊のかたち

冬空へ出てはつきりと蚊のかたち

岸本尚毅

 蚊が「冬空」へ出た瞬間をとらえた句。「冬空」という大きな空間がちっぽけな蚊をしっかりとキャッチしました。まさにキャッチしたという感じがします。

 小さくて、存在感すら乏しい蚊ですが、青々とした「冬空」にそのかたちをあらわにしています。大(「冬空」)が小(「蚊」)を逃さず、大小の対比が鮮やかです。また、「かたち」という措辞が巧みで、蚊の輪郭がくっきりと見えてくるようです。冬の蚊ですから、弱々しいはずですが、「冬空」という大景をバックにしているので、その存在感が明確に伝わってきます。また、カ音の硬質な音の連なりから冬の冷たい空気感が伝わってきます。

 この句は、ちっぽけな命なのに妙に蚊の存在感があり、生命力のたくましさを感じさせてくれます。作者は岸本尚毅さんで、第一句集『鶏頭』所収の句。                   (2026.01.01 【16】)

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。