ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

この一句

冷奴おとなになれば分かること

冷奴おとなになれば分かること

根来久美子

 「すはえ」代表の根来久美子さんの句集『たゆたへど』(2022年刊)所収。「大人になったら教えてあげる」とか「今は知らなくていいよ、大きくなったらね」とか言われる子どもを見かけます。対峙する大人は、どこか上目線で対等に接していないなと感じます。あるいは、大人もよくわかっておらず、そういう時の常套句なのかもしれません。

 子どもの頃、「冷奴」のおいしさがわかりませんでした。そもそも豆腐という食材は地味で、味が薄い。だからでしょうか、好んで食べるものではありませんでした。しかし、大きくなるにつれ、「冷奴」の食感や葱や他の食材との取り合わせがおいしく感じられるようになりました。

 「おとなになれば分かること」という魅力的なフレーズに「冷奴」という季語が配合されると、やられた!と唸ってしまう、そんな一句だと思います。季語の斡旋が絶妙です。さらに「冷奴のおいしさもおとなになれば分かったでしょ」と言われているようで大いに納得させられます。

 ちなみに、句集名は「たゆたへども沈まぬ街に鐘涼し」によります。「たゆたえども沈まず」というのは、パリ市の紋章に記されている文字です。セーヌ河の氾濫など災害にも決して流されることのなかったパリのシテ島のことですが、おそらく作者の信条でもあるのだと句集から感じました。

(2025.12.12 【12】)

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。