ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

この一句

低予算映画のような浜を蟹

低予算映画のような浜を蟹

福田若之

 どこか寂しく、わびしく、孤独で、青春性を感じさせる句。情景も目に見えるようで、「低予算映画」という言葉が想像を膨らませます。とても現場感覚があって、今を生きている感じがします。作者の福田若之さんは1991年生まれ。現代仮名遣い、口語体が句の内容や表現にピタリとはまります。

 この作者の俳句にはじめて出合ったのは、「ヒヤシンスしあわせがどうしても要る」という句でした。東日本大震災の直後に発表された句ですが、震災後でなくとも切実さが伝わってきます。若い二人の生活風景や会話が想像され、つぶやきをそのまま口語で表現したところが実にリアルです。この句も現場感覚や今を生きている感じが強烈にあります。

 他に、「キオスクが夏の記憶で今もある」「子どもたちが幾何学をする初夏の路地」といったノスタルジアがそそられる句もあります。「猫ですしじゃあ何でちまき食ってんのって話だわな」という口語体だからこその俳句もあります。「話だわな」の着地が見事としかいいようがありません。この作者の現場感覚と文体に私は大いに魅せられ、心が抉られます。                (2025.12.04  【9】)

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。