ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

この一句

若葉して御目の雫ぬぐはばや

若葉して御目の雫ぬぐはばや

松尾芭蕉

 1688年(貞享5)4月8日、芭蕉が唐招提寺で鑑真和上の像を見て詠んだといわれています。『笈の小文』に所収。鑑真は度重なる挑戦の末、753年、6度目の渡海でようやく成功しましたが、その途中に失明しました。渡日を志してから12年目のことでした。像を見て、芭蕉は鑑真のすさまじいまでの労苦と遺業に思慕の情が湧き上がったのでしょう。鑑真のすさまじい生き方と初夏の日に生き生きと映える若葉との対比が鮮やかです。

 昨日、中学時代の親友3人と唐招提寺を訪れました。若葉の季節ならぬ美しい小春日和でした。この句に接し、みんなで鑑真和上像を拝もうと御影堂をめざしましたが、なんと一年のうちわずか三日(6月5日~7日)しか拝観できないとのことで、身代わり像を拝むしかありませんでした。唐招提寺は759年、唐の高僧、鑑真和上によって日本に正式な仏教の戒律をもたらすための修行の場として設立されました。そのたたずまいは、天平時代の唯一の金堂をはじめ、講堂、鼓楼、礼堂、宝蔵、経蔵など美の極み、金堂の甍と鑑真和上の生き方が強く心に残りました。親友との旅と小春日和が心地よく、いつまでも唐招提寺にたたずんでいたいと思いました。 (2025.11.30 【7】)

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。