ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

この一句

下闇や一歩一歩を風とゆき

下闇や一歩一歩を風とゆき

星野佐紀

 下闇は木下闇のことで、夏の木立が鬱蒼と茂り、昼間ですら暗い状態をいいます。とはいえ、真っ暗というわけではなく、まぶしい場所から急に暗い所に入り込んだので、一層暗く感じてしまうのです。

 この句には暗さは感じられず、作者は風を感じながら一歩一歩進んでいます。「一歩一歩」の措辞に木下闇の涼しさを噛みしめるように歩む姿がうかがえます。ただ、句集『不東』を読むと伴侶を亡くされたあとの句であることがわかります。「下闇」はそんな状況を象徴しているかのようで、そう思うと、一歩一歩前へ進んでいこう、自然のままに風と歩んでいこうという作者の姿勢が感じられます。

 「下闇」という季語には暗さを感じることが多いのですが、この句は前向きで明るい。そこがこの句の魅力なのだと思います。夫を亡くされてからは、かつて夫とクルージングしたことを思いつつ、クルージングを楽しまれているようです。「甲板暑し十五ノットの太き水脈」など。

                                     (2025.12.26 【15】)

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。