風船のうしろに空のついてゆく
河内静魚
河内静魚さんの第六句集『夏夕日』所収、平成29年作(2017年)。作者の句はどの句も平明で、むずかしい季語やことばはありません。この句も「風船」と「空」だけの景で極めてシンプルです。しかし空が風船のあとをゆっくりついて行くように作者は感じました。そこに発見があります。平明な表現の中に詩が立ち上がります。作者の世界がしずかに広がり、読者の想像を呼び込みます。難しいことばなど使わなくても詩は生まれ、深い世界が広がります。俳句という器に無理なく向き合う作者の姿勢は、並大抵に真似できるものではありません。「空といふ大きな寒さありにけり」「囀りを空見るやうに聞いてをり」「風といふ空のゆらぎや西行忌」「難解なもの空になし小鳥来る」「日記買ふ遠くの空の明るくて」など他にも空を詠んだ句が収録されています。いずれも難しいことばは一つもありません。「平明なのに深い」、否、「平明だから深い」のです。 (2025.11.23 【5】)