口論は苦手押しくら饅頭で来い
大石悦子
この句は私の大好きな句の一つです。作者は『鶴』同人の大石悦子。平成十六年に上梓した第四句集『那々』所収、平成十年(1998年)の作品。作者は人と言い争うことが苦手で、何か言おうとすると、涙が出て声が上ずり、思考が混乱し、相手に言い負かされたといいます。この句は、「語りかけ」「男ぶり」といった悦子俳句の特徴をいかんなく発揮しています。内容の潔さが詠みっぷりや語調の歯切れよさと合致して、リズムで押し切った句の爽快さがあります。
この句に接すると、私は仕事で上司と議論になったときのことを思い出します。研究所勤務の長かった上司が「海外のビジネスでも仮説を立ててそれを検証し、課題を解決していくことが必要です。データを分析し、どう仮説を立てるかがビジネスの上で極めて重要です」と言いました。当時、実力者の専務が「データを分析して仮説を立てることが大事なんだ」とことあるごとに言うので、社内の誰もが「仮説、仮説」と叫んでいました。そんな風潮に反発を覚えていた私は、「そうは言ってもビジネスは理屈どおりに進みません。それをどう対応していくかがビジネスで、我々営業はいつもその対応に苦慮しています」と反論しました。「じゃ、何がビジネスでは大事なんだ?」と言うので、「仮説を立てることは大事ですが、結局、最後は信念と覚悟と情熱をもって判断するしかないと思います。理屈ではありません」と言いました。上司は「そうかなあ、やっぱり仮説じゃないのかなあ」と最後まで納得しませんでした。
おそらく、一ゼロの話ではないのでしょう。このとき、私はまさに掲句のような心境でした。「仮説は苦手、信念・情熱で来い」 (2025.11.20 【4】)