第61回 “It’s like picking up chestnuts from the fire.” (火中の栗を拾いにいくようなものだ)
- グローバルの窓(海外体験記)
携帯端末の合弁会社
世界の携帯端末市場はスマートフォンへと移行し、アップルとサムソンが2強の状況となっていました。かつてダントツのトップシェアを誇っていたノキアは脱落し、中国ベンダーが台頭。2010年のことです。海外市場から撤退してわずか5年で市場は激変していました。そんな中、NECは、カシオ日立モバイルコミュニケーションズとの間で「NECカシオモバイルコミュニケーションズ」という合弁会社を設立しました。
その頃、私は専務直轄プロジェクト(第60回ご参照)が解散となり、結構暇を持て余していました。仕事は欧州を中心にしたIT系のソリューション事業でしたが、これまでの忙しさが嘘のようで、こんなに楽をしていいのだろうかと感じていました。
移籍する?移籍しない?
そんな時、10年前のモバイル端末時代の上司だった方から、「今度携帯端末事業で合弁会社を設立することになった。ついては人を探している。また一緒にやらないか」とのお誘いがありました。私は、大損を出して海外市場から撤退したのがつい5年前だったので、たった5年でどうなのかなと思いました。どうなのかな、というのは、海外ビジネスに取り組む事業本部のマインドが変わったのかどうかということでした。全体が日本市場からの発想や考え方から抜け切れないならまた失敗する、と確信していました。しかし、元上司は、「今度はカシオや日立の方が加わるから前とは違う」と言います。たしかにそうかもしれません。特に、私の配属予定の海外営業本部は、NECは私を入れて3人、残り12人はカシオ日立の方でした。
所属する部の上司に相談すると、「来てくれと乞われることはありがたいじゃないか。50歳になって会社を辞めてくれ、という話はあるが、来てくれと望まれるのはなかなかないぞ」と言います。モバイル端末のビジネスはイタリア時代からやっていましたので、全く不安はなかったのですが、相変わらず日本市場中心の発想でほんとに海外市場に再々参入する覚悟があるのか、というのが私のポイントでした。しかし、部の上司が言うように、乞われて移籍するのと移籍しないのとでは違うかもしれないとも思います。
NECの携帯端末事業は、海外市場から撤退しましたが、日本ではトップシェアを維持していました。2010年というとアンドロイド搭載機が多く出た年で、まさにスマホ元年という状況でした(iPhoneは、2008年に3G機を発表。ソフトバンクだけが取り扱っている状況でした)。市場がスマホに移り再挑戦のやりがいがあること、カシオ日立の方々と一緒に仕事できること、乞われていくことを勘案し、最終的に合弁会社への移籍を決断しました。
決心は揺るがず
決断したあと、海外ユニットの専務から「なんで相談してくれなかったんだ。海外の携帯端末事業は君も知っているように、たいへんだぞ。火中の栗を拾いにいくようなものだ。もっと早く言ってくれれば、別のアサインを考えたのに」と言われました。しかし、「自分でもう決めましたので、たとえ火中の栗を拾うことになっても後悔しません」と自分に言い聞かせるように告げました。
これまでの異動(移籍)は、自分が決めるというより流れができていて実現した感がありましたが、今回は私に断る権利があったので、最終決断は自分の意思でした。初めてのことでした。しかも、50歳を超えていたので、これがおそらく最後の仕事になるだろうと思いました。最後は自分で決めると強く思い、専務に言われても気持ちは揺るぎませんでした。アナログ携帯、iモード携帯とこれまで1勝1敗。今回は三度目のチャレンジ、スマホです。個人的にも決着をつけないといけないという思いがありました。
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