ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

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第19回 “Market is market !” ~市場が変わったんだから仕方ない!~

  • グローバルの窓(海外体験記)
第19回 “Market is market !” ~市場が変わったんだから仕方ない!~

当時のイタリア会社の主要事業は携帯端末事業でした。他のプリンターやモニターと同様、携帯端末も「フォーキャスト」といって、半年先までの売上予測を立てて、日本の事業部に発注します。というのは、商品がイタリアに届くまで「リードタイム」があるからです。 

 リードタイムとは、注文を受けてから部材を手配し、製品を組み立て、出荷してミラノに届くまでの時間をいいます。受注から生産が完了するまでの生産リードタイムはだいたい3か月で、そのあと日本からイタリアへ輸送(税関、内陸輸送含め)する時間があります。航空便で出荷するとヨーロッパまではだいたい1週間かかります。(船便ですと1か月以上かかります)したがい、イタリア会社が注文してから航空便で出荷するとだいたい3か月強かかる計算になります。

 ということで、毎月、イタリア会社から日本の事業部への発注は3か月先の出荷分が対象となります。発注してしまうと、3か月分はキャンセルできないというのが当時の日本の事業部とイタリア会社との約束事でした。また、売上フォーキャストは半年先まで提示します。部材で足の長いリードタイムのものがあることや生産ラインの平準化等を考える必要があるからです。販売サイドの売りの予測が工場の生産を左右しますので、工場サイドにとってはイタリア会社から出すフォーキャストはとても重要なのです。

 イタリア会社では毎月、フォーキャスト会議を行います。売りのフォーキャストを立て、在庫レベルを勘案し、3か月先の発注数量を決めます。会議には社長、GM、営業マネジャーと私(コーポレートプランニングマネジャー)が出席しました。

 ところが、フォーキャストというのはなかなか当たりません。競合他社の動きがありますし、技術問題が起きたりするからです。あるフォーキャスト会議で、営業マネジャーが急に「売りが落ちた。今回の発注はゼロだ」と言いました。前回は1000台発注する予測を立てていたので、私は「それはないだろう、日本も我々のフォーキャストを信じて生産手配しているのだから」と反論しました。「そもそもなんで急に売れないと言うんだ」と聞くと ”Market is market. We cannot do anything.”という始末。それでは日本に説明がつかないと思いましたが、イタリア人の顔を見ているとこちらがやきもきするのも馬鹿らしくなりました。

 ドイツでも同じようなことがありましたが、そのときドイツ人のマネジャーは、「X社が価格を下げた、Y社が新製品をローンチして販促キャンペーンを打った」等、それなりの理由を詳細に説明してくれました。しかし、イタリア人は「市場が変化したんだから仕方ないだろ」というのです。イタリア人の考え方に慣れてきていた私は、たしかにそれもそうだ、マーケットが変わったのだから売りが落ちるのは仕方ない。それをとやかく責めるよりどう事態を改善していくかを議論する方が大事だと思いました。とは思ったものの、もう少し申し訳ないという態度を示して欲しいとも思いました。私が事業部に頭を下げて、キャンセル承諾の交渉をしないといけないのですから。

 それにしても、”Market is market”には参りました。さすがイアリア人です。日本の事業部からはいろんな嫌味も言われましたが、最後は諦めてもらいました。もちろん市場状況をそれなりに説明し、丁重に謝罪もしました。また、リカバリー策を示して、イタリア会社の誠意と信頼回復に努めたことは言うまでもありません。

 イタリア人と仕事を共にしていると、ときどきこのようなことが起こります。そのときは、えー、それはないだろう、と思うのですが、結局はこちらが何とかする羽目になります。ちょっと割が合わないのですが、一緒に仕事をしていて楽しいからまあいいかと思えてきます。起こったことをとやかく言っても仕方ないじゃないか。人生はそんなもんだよ、と言われているようで、妙に納得してしまうのです。Viva Italia !

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。