ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

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俳句の視点から (11) 「正解より納得」

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俳句の視点から (11) 「正解より納得」

 これからの社会は、AIがますます存在感を増していきます。そんな社会において人間に求められる力とは何なのでしょうか。『割に合わないことをやりなさい』(2025年刊)の著者、小玉歩は、「問いを立てる力」「共振力」「創造的破壊と編集する知性」「納得解の構築力」を挙げます。たしかに、いずれの力もAIには代替しづらく、人間特有の思考と感性に根ざした能力です。

 「問いを立てる力」とは、そもそも何を問うべきかという根本の問いということです。AIは、与えられた目的に対する「正解」は出してくれますが、そもそもの意味を見出す問いは出してくれません。そうした問いは、その人が見てきた世界や経験、価値観を踏まえたその人ならではの視点からしか生まれないからです。

 「共振力」とは、相手の感情に寄り添い、信頼を築きながら関係性を育てていく「共感」により生まれるものです。ここでも自分の経験や価値観を踏まえて相手に寄り添うことで、その人の心を動かします。AIは心にまで寄り添ってくれません。

 「創造的破壊と編集する知性」では、違和感に向き合い、無駄、逸脱といったことを厭わない気持ちが大事です。また、情報に意味を与え、意味を紡いで物語にしていく能力でもあります。過去データの組み合わせからアウトプットを生み出すAIにはなかなか難しいと思われます。

 最後の「納得解の構築力」は、複雑な利害、多様な価値観が交わる場面では、絶対の「正解」はなかなか見出し得ません。AIでは「正解」は出せても誰もが「納得」できる解を出すことは難しいと思われます。誰もが「納得」できる着地点を見出すのは面倒なことですが、面倒なことでも引き受け、「納得」できる結論を出せるのは人間です。

 翻って、俳句に照らし合わせると、「問いを立てる力」は何に着眼するかという句づくりの出発点に当たります。「共振力」は俳句作品そのものが相手の心を動かします。「創造的破壊と編集する知性」は、着眼した内容を表現し、調べを整えて句に落とし込むことで新たな世界観を創出するといえるでしょうか。

 最後の「納得解の構築力」は、俳句がもたらし得る最大の価値ではないかと思います。価値観が多様化する中でタイパ、コスパで手っ取り早く「正解」が求められる今日、「納得」を得ることはますます難しくなっています。そもそも「正解」は一つではありませんし、「正解」などないかもしれません。だからこそ、手間暇や時間をかけて「納得」を醸成することが必要なのです。俳句は手間暇かけてたった十七音に落とし込み、表現します。俳句に「正解」はありません。作品を読んでいいと思う人もいれば、思わない人もいます。しかし、俳句で表現されたさまざまな世界観が人に「気づき」を与えます。「正解」でなくとも様々な「気づき」がもたらされる、そこに俳句の大きな価値があるのではないかと私は思います。「正解」よりも「納得」を大事にしたいと思います。

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。