ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

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エッセンス【グローバルの窓】(4) ~やるべき時にやる!(雪のアルプス越え)~

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エッセンス【グローバルの窓】(4) ~やるべき時にやる!(雪のアルプス越え)~

 日本のディスクドライブ事業部とドイツの現地法人の混成チーム6人がキャラバンを組んでイタリアの会社を訪問したときのことです。翌日はミュンヘンのシーメンス社を訪問する予定で、私はミュンヘンで一行を迎えるため、待機していました。ところが、一行から夜に連絡が入り、ミュンヘンへ移動するフライトがミラノ特有の霧の発生でキャンセルになったとのこと。受注が獲れるかどうかの瀬戸際、我々はシーメンス社のキーパーソン10人以上に出席を呼びかけ、3時間の大ミーティングをアレンジしていました。「さあ、困った、どうしよう!」とミュンヘン側は大混乱。

 しばらくして一行からまた電話が入り、車2台でミュンヘンへ向かうというのです。雪が吹き荒れる中、まさかのブレンナー峠の「アルプス越え」です。

 翌朝、8時になっても連絡はありません。我々ミュンヘン側で打てる手は、最初にプリンター製品のプレゼンを行い、時間を稼ぐしかありません。ゆっくりとプレゼンするドイツ人のマネジャー。時間はじりじりと過ぎていきますが、連絡はありません。

 10時を少し過ぎたくらいでしたでしょうか、ドアがバタンと音を立てて開きました。一行が雪崩れ込んできたのです。徹夜で一睡もしていない6人。しかし、生き生きとしていました。「みなさん、お待たせしました。雪のブレンナー峠を越えて、今、ミュンヘンに到着しました」。そのとき、シーメンス社のみなさんからいっせいに拍手が沸き起こりました。

 「Amazing !」

 このような雰囲気でプレゼンテーションが始まったものですから、議論は弾み、とんとん拍子に受注の内定にまで進みました。このミーティングを起点にシーメンス社から大型発注が入り、市場の流れが一気に変わりました。ゼロから1年後に年商100億円を達成できたのは、まさにこの「雪のアルプス越え」がきっかけでした。

 ビジネスも人生も同じ、「やるべき時にやる!」、それが教訓でした。また、アルプスを挟んでドイツ人と日本人が協力し合ったことも成功の大きな要因でした。今でもあの日のシーメンス社でのじりじりとした時間と「Amazing !」の声は忘れません。今振り返れば、あの瞬間こそがディスクドライブ事業の分水嶺でした。「雪のアルプス越え」は、私のビジネス経験の中でも最も劇的な出来事でした。

【第4話ご参照】

 追伸:

 この年の中期計画で私の上司の欧州事業部長、小林淳二さんは、受注に至った経緯を私にまとめるよう命じました。小林事業部長は、この年、会長・社長の出席する全社中計の場で、講談のように臨場感をもって説明されました。中計のタイトルはもちろん「雪のアルプス越え」。このブログを小林淳二さん(昨年12月ご逝去)はじめ亡きNECの欧州事業の方々に捧げます。

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。