俳句の視点から(9) 「報われ消費」
- 俳句の視点から
社会の消費動向は21世紀に入り、「モノ」から「コト」(経験や感動を求める)へと移りました。そして、今では「コト」から「イミ」へと消費動向が移っています。
『考察する若者たち』(2025年刊、三宅香帆著)によると、若い人は、映画やドラマを観て楽しむだけでなく、その先の展開を予想して当てることをも欲します。ゲームに勝ったという実感が欲しいからのようです。また、ライブを観て楽しむだけでなく、ライブのチケットを買ったお金が、推しているアイドルやタレントの順位を上げることにつながって欲しいと思っています。さらに、ビールを飲んでおいしいと思うだけではなく、ビールを買ったお金が寄付として全国の桜の保全活動につながるならより得した気分になるそうです。
ただ楽しい、おもしろい、おいしい、というだけでは満足しません。より直接的な「意味ある時間」に進展した方が嬉しいのです。プラスアルファの「意味ある時間」に変える工夫があると惹きつけられるようです。著者は「意味ある時間」を求める若い世代の消費行動を「報われ消費」と名付けます。「報われ消費」は、ただ楽しい時間を過ごすだけではなく、さらにその時間が報われることが重要になります。感動する時間だけではなんとなくもったいない、無駄だと思ってしまうようです。
「報われ消費」が普及している背景には、インターネットのプラットフォームの存在が大きいと著者は指摘します。プラットフォームはリコメンド・アルゴリズムを持っていて、同じ考えや嗜好を持つ人びとをつなげます。趣味嗜好や共通の関心でつながるコミュニティが形成されやすくなります。昨今の流行言葉の「界隈」に当たります「界隈」は特定のジャンルや行動を好む人びとの集まりで、アルゴリズムが同じ「界隈」であると判断すると、同じ情報を出し続けます。「界隈」にいるとどんどんその「界隈」への「最適化」が深まっていきます。
また、著者は、「報われ消費」を求める姿の代表例がChatGPTなどの生成AIにもあると指摘します。AIは、何かを問うと必ず答えを返してくれますし、そのほとんどが正しい(と思われる)ので、ググる(グーグルで検索する)よりジピる(ChatGPTを活用)方が報われやすいとなります。世界中の情報が手に入っても、「正解」がどこにあるのか分からない状況下、少しでも報われるゴールがあると、たしかに我々はそれにしがみつきたくなります。「正解」は我々に報いてくれるからです。
「正解」があったら早く手に入れ、人生をうまくやり過ごしたいと思うのはわかりますが、もう少し「正解」以外のものが大切にされてもいいのではないかと著者は示唆します。なぜならそこにこそ我々の「固有性」が宿るからです。「正解」にしがみつけばつくほど、我々は過剰に「最適化」し、自分らしさがわからなくなっていきます。
「界隈」は、フラットな組織構造のコミュニティです。これは昨今の俳句の結社の動向と合致します。私は、俳句は正解のない文芸だと思っています。選者によって採る句や受賞すべき作品が違ってくるからです。採る側の意見が一致しないのですから、投句する側は皆が採ってくれそうな句と思って投句するのではなく、自分らしさを打ち出した句を出していきたいものです。著者の言うように、「最適化」より「固有化」を意識したいと思います。自分の俳句のためにも、「界隈」化社会の持つフラットな特性を活かすためにも「固有化」をもっと意識したいと思います。
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