「俳句の視点から」(5)マウント消費と経済成長
- 俳句の視点から
「マウントを取る」という言葉を最近よく耳にします。自分の優位性を示すために自慢したり、威圧的な言動を取ったりする行為を指します。現代の消費社会に目を向けると、かつては物質的な豊かさを追い求める「モノ消費」が経済を支えていました。その後、生活に必要なモノが行き渡ると、洒落たホテルで地元の旬の食材を堪能する旅行のような体験を求める消費、「コト消費」が登場しました。
ところが、SNSの普及により「コト消費」はさらに変貌を遂げています。SNSで自分の体験を見せつけ、自己アピールする消費に移ってきています。「こんなにすばらしい体験をしている」とさりげなくアピールするのです。『マウント消費の経済学』(2025年刊)の著者、勝木健太はこの消費の新たな潮流を「マウンティングエクスペリエンス(MX)と提唱し、これからの経済成長の鍵が見出せるといいます。
たしかにそういう潮流は見受けられますが、人間の尽きることのない消費欲を満たし続けない限り、経済成長はないとなると少ししんどくなります。マウント消費を価値観の軸にして成長する社会はどうなのでしょうか。
一方、 『人生後半の戦略書』(アーサー・C・ブルックス 2024年刊)におもしろいことが書いてありました。著者の親友が「花を見ててごらん」と言い、その花の周りに集まって見ていると、小さな花が突然パッと開きました。著者は驚きと喜びで息をのむと同時に、震えるほどの満ち足りたひとときを味わったといいます。大きな目標を成就した時の記憶よりも思いがけない小さな幸運に感動した記憶の方がもっと嬉しかったというのです。
俳句は小さな命やものにも目を向けてその小宇宙を詠みます。ひょっとしたら先述のような思いがけない幸せに遭遇するかもしれません。仮に花がパッと開かなくても、小さな命に目を向けるという俳句の世界の姿勢は、マウント消費に向かう社会の姿勢よりも私には魅力的に映ります。
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