ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

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第62回 “Without investing in brand promotion, it is extremely difficult to enter the European market!” (ブランドプロモーションへの投資がなければ欧州市場に参入することは極めて難しい!)

  • グローバルの窓(海外体験記)
第62回 “Without investing in brand promotion, it is extremely difficult to enter the European market!” (ブランドプロモーションへの投資がなければ欧州市場に参入することは極めて難しい!)

欧州市場へアプローチ

 新生のスマホ合弁会社がスタートしました。海外はカシオの時代から続いているベライゾン社向けの北米ビジネスだけで、これから欧州を中心に再参入戦略を策定し、進出することが課せられました。ベライゾン社向けにはカシオのG-Shock技術を使ったスマホを供給していましたが、再参入市場には、NECの薄型技術を駆使したスマホを拡販することになりました。市場の大きさからまずは欧州市場を攻略しようということになりました。 

 私は大手携帯オペレーターへの売り込みを図るべく、フランステレコムとの交渉を開始しました。同社は、我々の薄型スマホにとても興味を示し、ぜひ売り込みたいとのことでした。出だしは上々の滑り出しでしたが、価格や取引条件はこれからです。

欧州の市場構造

 前回のiモードの経験から欧州のオペレーターは必ずプロモーション投資を求めてくることはわかっていました。特にNECのスマホを売るには、NECのブランドをまずは市場に浸透、アピールすることが必須で、それはスマホベンダーが自ら行わなくてはいけません。スマホオペレーターは、あくまで軒を貸すだけ。どのスマホが売れるかはすべてスマホベンダーの力量次第ということです。

 しかし、私にはプロモーション予算はほとんど持たされず、売値から得られるGP(粗利)でプロモーションの原資を捻出する必要がありました。例えは悪いですが、戦争でいうなら食糧は現地で調達せよ、と言われているようなものです。アップルやSamsungならいざ知らず、我々のような市場に認知されていないブランドは、どうしてもブランドを普及させるための広告やプロモーションが必要でした。また、それをしないとスマホオペレーターは、そのブランドを積極的に売りません。市場で売れなければ追加購入はありません。

 この欧州市場の構造は、五年前と変わりませんでした。オペレーターは軒を貸すだけで一種のテナント商売のようなものです。日本では、NTTドコモなどのオペレーターがどんな商品をローンチし、どんなプロモーションを打つかを主導します。在庫も引き取ってくれますので、スマホベンダーは安心してプロモーションへお金をつぎ込むことができます。しかし、欧州市場では、オペレーターはそこまでしません。市場で売れてくればオペレーターも積極的に売り込みますが、そうでなければほったらかしです。

投資コミットで握れないか?

 オペレーターに売らせるためには、ベンダー側が先にプロモーションを打って、ポジティブスパイラルに持っていく必要があるのです。そのためにはこれだけ売れる、だからこれだけGPが稼げる、だから先行してこれだけプロモーションに投資するとリスクを先取りする必要があるのです。投資しないことにはポジティブに回転しないのですが、投資すればしたで損のリスクが大きくなる、そのバランスの中でビジネスを進める必要がありました。

 それではどのくらいプロモーション投資すれば、フランステレコムをその気にさせられるのか、私はそこを探ろうとフランステレコムと交渉しました。交渉から引き出したフランステレコムの言質は、最低10億円のブランド投資でした。10億円を我々が投資すれば、彼らも積極的に売ると約束したのです。5万台は最低でも売りたいとのことでした。ブランド力のない我々にそれ以上の言質は取り付けられず、これが「握り」の限界でした。

 事業マインドは五年前と同じ!

 持ち帰って、社内で協議、交渉しましたが、計画部は「売れる保証もないのに10億円のプロモーション予算などつけられない」の一点張りでした。私は、「10億円の投資ができないなら欧州市場に打って出ることはできません」と主張しましたが、平行線でした。新会社のマインドは、相変わらず日本市場に引っ張られていることが透けて見えました。これは五年前と何も変わらない会社のマインドでした。相手(オペレーター)頼みでビジネスを進め、自ら覚悟して推進する姿勢はないのです。それなら欧州市場は攻略できないと見切りをつけ、私はアジア市場へ切り替えることを提案しました。

 上司の常務からは、「仲さんは欧州市場を諦めるんですね」と言われましたが、「諦めるのではありません。10億円すら投資できないのなら欧州市場でビジネスは成立しないと言っているのです」と言いました。しかし、結局聞き入れられず、私は欧州担当から外されました。新会社のマインドは日本市場重視で、五年前と何も変わっていない姿勢を私はわずか半年のうちに知ることになりました。

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。