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エッセンス【グローバルの窓】(9) ~「モノ」ではなく「価値」を売る~

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エッセンス【グローバルの窓】(9) ~「モノ」ではなく「価値」を売る~

 真夜中のオフィスに「ギーギー」と不気味な音が?!

 残業中にトイレに行こうとした時のことです。下の階から変な音が間断なく鳴り響いてくるのです。こわごわ下の階に降り、音のする部屋の前に立ちました。周りには誰もいません。覚悟してドアを開けると、なんと30台ほどのドットプリンターがひたすらプリントアウトしているではありませんか。その異様な光景に私は息をのみました。

 翌朝、私はすぐに営業部長を捕まえ、「昨夜はすごい怖かったよ。誰もいない部屋にプリンタがひたすら紙を打ち出しているんだ」と言いました。すると営業部長は、「ああ、あれか。あれは、カラーのプリントアウトのサンプルを出力している。多分一か月くらいかかるだろう」と言います。「なんでそんなことするの?」と聞くと、「ユーザーが欲しいのはプリンターではなく、プリンターが出すプリントアウトなんだ。ユーザーにはあなたが欲しいのはこのような美しくクリアなプリントアウトだろ、と言って売り込むんだ」と。30日間、30台のプリンターでひたすら出力し、それを「プリントアウト集」として全国千社以上のディーラーに提供するのです。それらはすべてNECのプリンターから打ち出されたものです。「モノ」ではなく「価値」を売り込むという発想、そして、その価値を30日間かけて作り出す手の込んだやり方に私は脱帽しました。

 トップシェアに躍り出て、収益も大きくなっていましたが、それに胡坐をかくことなく、常に斬新なアイデアを打ち出し、ひたすら売ることを考え続ける営業部隊。他社を凌ぐステージを終え、今やいかにユーザーに満足を提供し続けるかを考えていたのです。この時期の世界市場はまだまだハード志向が強かったのですが、彼らは既にソリューション売りの発想を持っていました。トップシェアの意味の一つは、新たなイノベーションを創出する源泉だと強く感じました。

 営業部長はのちに本社のインタビューに次のように答えています。

  NEC is my life !

 【第9話ご参照】

 

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。