ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

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俳句の視点から(14) 「 数だけの多様性は不十分 ~包摂性の意義~」

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俳句の視点から(14)  「 数だけの多様性は不十分 ~包摂性の意義~」

 前回、多様性の観点からCIAの盲点について書きましたが、今回は、「DE&I (Diversity, Equity and Inclusion)」の「Inclusion(包摂性)」について書きたいと思います。「包摂性」というのは、多様な人々を排除せず、違いを尊重し、メンバーとして受け入れることを意味します。

 10年前、私は私を含め、7人のグループの責任者としてエネルギー部門に異動しました。理論的なエンジニア、職人気質のエンジニア、海外営業の経験者、韓国籍のマーケティングに長けた人、入社2年目の若者、戦略家でエネルギービジネスの経験豊富な年配の方(私より年上)という顔ぶれでした。多様なメンバーでしたが、肝心のリーダー(私)が、エネルギーのビジネス未経験では舵取りもおぼつかないという状況でした。

 着任初日、自己紹介のあと、年配の方から「仲さんはエネルギーのことはまだわからないでしょうから、毎日一時間、勉強会を兼ねてグループミーティングをしませんか。知識や情報の格差があると議論はうまく運ばないので、みんな同レベルの知識、情報を共有し、ビジネスをどう進めていくかブレーンストーミングしていきたいのです。3か月くらいは続けた方がいいでしょう」との発言がありました。たいへんありがたい提案でしたので、さっそく実施することにしました。

 私は、初めは頓珍漢な質問をしていましたが、しばらくすると「なるほど、そういう考えもありか、新しい視点ですね」と年配者を唸らせる質問を発することができるようになりました。みなさんからも技術、市場、製品、ビジネスモデルといった様々な視点からアイデアが出され、有意義な議論ができました。1か月もすると私のエネルギーに関する知識レベルは格段に上がりました。

 年齢、得意分野などある程度多様だったことに加え、リーダーがエネルギーのことをわかっていなかったことが却ってよかったように思います。リーダーに余計な忖度をする必要がなく、みんな気軽に意見を述べ合うことができました。自ずと「心理的安全性」が作り出せていました。その結果、メンバー全員に新たな気づきが得られ、活発な議論ができました。

 この時のグループミーティングは、私には「句会」と似通っていると感じられました。「句会」では、老若男女、時には外国籍の人も加わり、フラットな関係で進みます。自分の選んだ句を好きなように述べていきます。誰の句かわからないので、評した句が主宰の句だったということも起こり得ます。そこには「心理的安全性」が担保され、「DE&I」の仕組みができ上がっています。「句会」は既に社会に先行していると思います。

 こうした経験から、私はカジュアルに、オープンに、フラットにお互いの価値観を尊重し、意見をぶつけ合うことが大事だと感じます。議論やお互いの切磋琢磨が気づきを促し、価値観の幅を広げます。その結果、豊かに仕事ができ、豊かに俳句を作り、鑑賞することができると思うのです。

 

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。