ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

Blog

ブログ

俳句エスプレッソ(12) ~心象俳句とは~

  • 俳句エスプレッソ
俳句エスプレッソ(12) ~心象俳句とは~

 「心象俳句」という言葉があります。写生を重んじる流れに対し、主観や心の世界を強く打ち出した方向の俳句といえるでしょうか。作者の内面にある「心のイメージ」「感情」「意識の動き」といったことを中心に詠む俳句のことを指します。

 特徴としては、実景よりも心の風景に軸足を置く、具体物が比喩や心の象徴になる、そのため主観的な色が出やすい、といったことが挙げられます。急激な近代化や戦争などにより実存的不安が高まったことがその背景にあるように思います。自然をありのままに詠むだけでは表現し切れず、強まる心の動きに踏み込んで詠むのです。

 加藤楸邨の句に「鰯雲人に告ぐべきことならず」という有名な句があります。昭和13年、楸邨33歳の時の作品です。空に広がる鰯雲を見て、作者は今の自分の心境は誰にも告げることはできないと思ったのでしょう。しかし、それが何なのかはわかりません。唯一の手掛かりは「鰯雲」です。「鰯雲」のイメージが作者の心につながっています。あとは読者が好きなように鑑賞するだけです。

 「心象俳句」は時に難解、独りよがりといわれる所以です。しかし、共感できると強烈な魅力を放ちます。

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。