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~「俳句」と「異文化」による出会い~

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エッセンス 【グローバルの窓】(6) ~本社より現地の立場で~

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エッセンス 【グローバルの窓】(6) ~本社より現地の立場で~

 「今すぐ荷物をたたんで日本へ帰れ!」

 ドイツに赴任して一週間も経たない頃、いきなり現地法人の社長(日本人)からの怒声が飛びました。それはドイツ社内のフォーキャスト会議でのことでした。当時、販売していたプリンタは日本で生産し、ドイツに出荷していました。お客様は即納を要求しますので、在庫を抱えて対応する必要がありました。生産のリードタイム(発注してから出荷するまでの期間)は3か月を要するので、ドイツ側では販売の予測を立て、見込みで発注していました。実際の販売が予測より少ないと在庫が溜まり、予測より多いと在庫が足りなくなります。フォーキャスト(販売予測)を立て、3か月先の発注数量を決めるのがフォーキャスト会議で、事業の成否を決めるといってもいい重要な会議でした。

 席上、いきなり ドイツ人の営業マネジャーが、「来月、1000台のプリンターが要る。東京へ緊急出荷を要請してほしい」と発言しました。リードタイムを完全に無視した発言に私はおもわず、「発注もしていないし、ましてやフォーキャストにもなかった数量を出荷しろといってもできるわけがない」と答えました。私は自信をもって発言しました。ルール上は間違っていないからです。しかし、そのときに冒頭の発言があったのです。「本社を向いて仕事をする奴などこのドイツ会社には要らない!」とすごい剣幕でした。

 社長が私に伝えたかったことは、「本社を向いて仕事をしていたら、ドイツ人は誰も相手にしないぞ。お前はもう本社の人間ではない。ドイツ法人の立場で考え、仕事をしないとここでは誰も信用してくれない」ということだったのだと思います。出向前は、何度もドイツに出張し、ドイツ人と信頼関係ができ上っていると高を括っていましたが、それは本社の私だったのです。これからは同じドイツ会社の仲間としての私としてあらためて信頼関係を築いていかないと駄目なんだと気づかされました。

 のちに その営業マネジャーが「お前ら日本人はいいよな。ドイツの会社がどうなろうが、日本に戻れば本社で働けるんだから。でも、おれらはこの会社が潰れたら行くところがなくなるんだ」ということをこぼしたことがあります。社長はそういうドイツ人の気持も十分承知で、あの場で私を叱り飛ばしたんだと思います。日本人出向者の甘い気持をドイツ人の前で打ち砕き、ドイツ人に示しをつける狙いもあったのだとあとになって思いました。

 いずれは本社に戻る(れる)という甘い気持がある限り、現地の人とは真に向き合えません。現地の社員は日本人の言動をよく見ています。現地の立場で考えているのか、本社を向いて仕事をしているのかということを。それにしてもあの剣幕はすごかった!    【第6話ご参照】

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。