ことばのさすらい
~「俳句」と「異文化」による出会い~

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俳句エスプレッソ (10) ~沈黙の詩型~

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俳句エスプレッソ (10) ~沈黙の詩型~

 俳句は短く省略の効いた詩型です。イメージが凝縮されることで、読者は想像力を掻き立てられます。凝縮された十七音をパッと開くと、一気に世界が広がるという詩型です。省略の後に残されるのは「沈黙」で、「沈黙」からイメージが湧き出て、饒舌になるのです。作者が饒舌になる必要はありません。読者がそれを引き受けてくれます。読者が引き受けることではじめて作品が成り立つともいえます。

 省略の効いた句を角川の『俳句』(2024年2月号)からいくつか掲げます。

  スケートや右に左に影投げて 鈴木花蓑: 影を表現しながらスケーターの体の動きを省略

  遺品あり岩波文庫「阿部一族」 鈴木六林男:本人が亡くなったことはわかりますが、他は一切省略

  茶柱が立つたり鶯が来たり 大石悦子:めでたい事だけを並べ作者の気持は省略

 俳句はできるだけ言いたいことを省略する文芸だと思います。説明は要りません。俳人の福永耕二は、<人に感動を語りたい欲求を抑えて、よき詩人はよき祈りをし、祈りの中で詩人は言葉を得る。だから、詩人はまず沈黙することが唯一の表現であるという思想を所有しなければならない><最後に残った十七音の言葉に対するぎりぎりの愛情が人に訴え得る>といい、俳句は「沈黙の詩型」であるとまで言い切っています。

筆者紹介

仲 栄司

Eiji Naka

大学でドイツ語を学び、1982年、日本電気(株)に入社。退職まで一貫して海外事業に携わり、ドイツ、イタリア、フィリピン、シンガポールに駐在。訪問国数は約50カ国。
趣味は俳句。『ダリの時計』(句集)、『墓碑はるかなり』(評論)を上梓。
座右の銘は「南国のしあはせバナナあれば足る」
東南アジアの「空気感」が大好きです。